「……」
 後少し、というところで、顔を沈めるのをやめ、巽は停止した。
 目と目は合っている。
 来い、という合図だ。
「もぅ……」
 苦笑しながら、太い首に腕を巻きつけ、身体を起こして唇をつける。それを合図に、巽は身体を沈め、枕に頭が着くと、口の中から水を少しずつ小出しにしてくる。
 生暖かい水が、舌の上に広がる。
 本当は冷たい水で喉を潤したかったが、まあ、少し飲めればいいか、と満足したふりをした。
「そういえば冷蔵庫、何もないんだよね?」
「ああ」
「じゃあまず買い物かあ……」
「昼は何か取るか? すぐは作れないだろう? 慌てて買い物しに行ってもいいが、帰りに違うタクシーを拾われても困るしな」
 黒崎のことか……また、昔のことを……。
「うーん、そうだねえ……」
 香月は、知らんふりをして、バックを取り、携帯を開いた。
 ちゃんと有給とれてるよね? の確認のつもりで着信のない画面を確認するつもりが、いきなりの3件もの着信に驚く。
「え……誰だろ……」
 呟きながら確認した。まさか、有給のことを忘れられて、無断欠勤を怒っての宮下ではあるまいな!?
「あれ。四対さんだ……どうしたんだろ」
「何だ?」
「朝から着信が3回もある。急ぎかな……」
 そう、巽の隣からかけることは禁止されている。しかし、急ぎかもしれないと、自分に言い聞かせ、通話ボタンを押した。
「……出ない。この前さ、四対さんに、あいつの側からかけるなって怒られちゃった」
「何故?」
「……この前、電話変わられたのが、嫌だったみたい」
 さすがに、ウザイって言ってたよ、と正直には言えない。
「今時期は……忙しいはずだがな」
「ふーん……ちょっと時間があきそうだったのかな? 今日木曜だし、私が休みなの知ってるから。
 あ、そうそう。あのさあ、今思い出したんだけど、……、佐伯に紹介してくれるような知り合い、いないよね……」
 香月は、ダメ元で聞いてみた。