「例えば、スーパーの安売りに行かなきゃ、とか」
「料理しないからあんまり行かないけど……。けど、そんな高い服買えない、とかは言うかな」
「そーゆーのがまた初心な感じでいいのかなあ」
「別に狙ってるんじゃないよ」
「けど、買えないって言ったら買ってくれるでしょ?」
「うーん……まあ、そうかなあ。スーツは買ってくれたことある。けどあんまり一緒に買い物行かないしなあ……」
「いつもどんなデートですか?」
「デートぉ……、どっかのホテルでディナーして、そのまま泊まる、がほとんど。今までどっか行ったのってディズニーランドとプーケットくらいだよ、あと北海道かな」
「忙しい人だからでしょ?」
「まあ……。佐伯はどっか行ってるの?」
「最近は行ってないけど、色々行きましたよ。海外がほとんど」
「はあー……いいねえ……私も旅行、行きたいなあ……」
「………、けど、なんというか、彼……。両親が私にそう言ってからは、明らかに違うんですよね……。
 実は、もう本当はここには来ないかもしれない」
「……え……」
「来ないかもしれない……けど、どうしていいのか分からない……」
 香月は、5秒だけ、間をとった。それ以上本当は考えたかったけど、深く考えても答えは同じだと自分に言い聞かせた。
「行こう。というか、出よう、ここから」
 真っ直ぐ佐伯を見つめた。
「………」
 佐伯の不安な瞳が潤んでくる。
「出よう、ここから。こんなところからもう出よう! 行こう、うち。うちならなんとかなる。部屋、狭いけど大丈夫。みんな、優しいから」
「………」
 佐伯は下を向いて、忙しく考え始めた。
「ねえ、ダメだよ。ここにいても、絶対どうにもならないよ!! だから、行こう」