絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「……、とにかく、もう電話、切ってください、私はもう帰ります」
　伊吹はずっと携帯の側で話をしていたが、更に近づいて言った。
「香月さん、今日は帰られるようです。できれば迎えに来てあげてください」
『……場所は?』
「中央マンションです」
『では……三十分後に』
「お待ちしています」
　彼女の前で、簡単に電話を切ってみせる。
「三十分したら、彼氏があなたを迎えに来ます」
　彼女は驚いた表情を見せてから、
「いいです!!　自分で帰ります」
「もう夜遅いですから」
「いいです、タクシーがあります!!」
　彼女は靴を履いてそのまま出て行ってしまう。
「待たないんですか?　彼、こちらに向かっていますよ」
「私は話すこと、ありませんから」
「彼は話すことがあるんだと思いますよ」
「話すことがあるのは伊吹さんでしょう!?　一体何を話すつもりなのか知りませんけど…」
「だから、あなたと結婚するために、彼に手を引いてほしいとお願いするんです」
「……」
　彼女はこちらを睨んでから言った。
「……馬鹿馬鹿しい……」
「どうしてです?」
「彼が手を引いたって、私が好きにならないと同じでしょう?」
「ええ。だけど、順番はそうです」
「……」
　すぐにエントランスまで来てしまった。もちろん彼はまだ来ていない。
「待ちましょう、あなたの将来のために」