絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「……けど、好きな人の子供はほしいものです」
「そんなこと、誰が決めましたか?」
 彼女は忙しく考え始めた。
「そんなこと、誰が決めたんですか……。
 僕はあなたが子供を生んでも生まなくても、何も変わりません。そんなことで何かが変わるのならば、とっくに変わっていますよ」
「……」
 最初にカーペットが濡れたことに気づいた。彼女は、大粒の涙をもうこらえもせずに、流していた。
「……少し、休みませんか?」
 その時、彼女の携帯電話の着信音が廊下に鳴り響いた。
 彼女は躊躇せずに、携帯を開き、そのまま、後ろを向いて出る。
「はい、ごめん、後からかけ直す……っから」
 そう言ったきり、彼女は肩を震わせて、喋らなくなってしまう。
「彼氏ですね?」
 確信して聞いた。
「……」
 彼女は答えない、だが、構うものかと、その携帯を奪い取った。
「!?!?」
「もしもし、突然すみません」
 相手は何も喋らないが、雑音から考えて、車内だと予測した。
「ホームエレクトロニクスの、伊吹航大です。香月さんには日ごろからお世話になっています」
『……何でしょう?』
 相手の男は、低い声で言った。
「今香月さんは僕の家で2人きりでいます。
 香月さんにも今お話したのですが、結婚を前提にお付き合いしたいので、どうか手を引いていただけませんか?」