絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

　明らかに抵抗されたので、素直に腕をほどいた。
「僕はただ、……あなたと結婚をして、普通の家庭を築きたいだけです」
　真っ直ぐ目を見て言った。何か、伝わるものがあれば、と。
　だが、彼女は溜め息をついて、目を伏せた。
「……私とでは、普通の家庭を築くことはできません」
「どうしてです?」
「……それがあなたの妄想だからです。
　私は……」
「……」
　長い沈黙が続いた。彼女は何か言いたそうで、何かを躊躇っている様子で。
「僕は何も驚きません」
　ある程度のことは覚悟をしていた。でなければ、軽々しく結婚など口にできない。
「私は」
　その一言で決心がついたのか、潤んだ瞳をきりりとさせて、顔を上げた。
「私は、子供を生むことができません。避妊、手術をしています」
　言った途端、何故だか涙が零れていた。
「……どうして泣くんですか?」
　素直に、指で涙を拭った。
「……」
　彼女はそれには答えず、下を向いたまま。
「なら、それでいいじゃないですか。2人でも、十分家庭です。僕はあなたと結婚したいだけで、あなたの子供がほしいわけじゃない」