絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

 会話と表情は完全に、スーパーの酒売り場のそのものではなくなっていた。
「専用の携帯渡してくれたり」
「それって完全に彼女じゃないですか」
「違いますよ、だから、あの人はお金が有り余っているから、友達には携帯配るんじゃないですかね……、知らないけど」
 香月は会話を中断するように、チュウハイを手に取り始めた。
「僕じゃあ……」
「これこの前……」
 2人、同時に話し出してしまう。
「……どうぞ」
 伊吹は一歩引いた。
「……これ、この前新聞で流行ってるっていってました。これ買おうかな……」
「……そうですね」
 ビール、チュウハイをとりあえず15本買った。一人5本もあれば、酒豪がいても、なんとか一時持つだろう。
 伊吹はスカイラインに乗り込みながら、焦る自分を制するのに精一杯だった。助手席には彼女がいる。自分を目ともしない、彼女がいる。
「今井さん、料理得意だって言ってたから楽しみですね」
「あそうだ、電話しなきゃ…」
 忠告どおり、清水に電話をかけた。出なかった場合、どう香月に言い訳しようか一瞬迷ったが、彼はすぐに電話に出て、溜め息をつきながら、用意はできてる、とだけ述べた。どうやらうまくいかなかったようだ。
 電話を切って、すぐに走り出す。
「一つ言っておかなければいけないことがあるんです」
「……何でしょう」
 香月は何を予感したのか、真剣な表情でこちらを見た。