絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ


「えっとぉ……、鍋にこんにゃく? 今井さん、どこから来たんでしょう……」
 店内は、魚をテーマにしたポップな曲がさっきからずっと流れているが、香月はそんなことまるで関係なさそうに、白い紙切れを見ながら首を傾げた。
「僕の家もこんにゃくを入れますよ」
 伊吹は少し笑いながら答えた。
「えっ、そうなんですか? 板こんにゃくですよ、板」
「はい、ねじって入れます」
「へー……うちは糸だったなあ……」
 ポニーテールに結い上げた髪の毛が、いつもより彼女を若々しくさせている。この前、実家で見た、まるでデート衣装だった彼女とは全く違うカジュアルな井出立ちであったが、それはそれで、アットホームな雰囲気を感じさせる柔らかな演出は最高であった。
 今井と清水は今、自宅でできるかぎりの下ごしらえをしている。もちろん、これは清水の意図であった。何かがあるといけないから、帰る前は電話をしてくれと、事細かに指示も受けている。全く、人は見かけによらない。
「後はお酒かあ……。何飲みます?」
「香月さんは?」
「私は飲みませんから……ジュース買おうっと」
「……この後用事でもあるんですか?」
 自虐のつもりで聞いた。
「あるかもしれないし、ないかもしれないけど、一応……」
 そのまま先に急がれてしまう。
 伊吹は我慢しきれずに聞いた。
「あの、この前実家でいた……四対財閥の人なんですけど……」
「はい、あ、知り合いなんですか?」
「いや……まあ、お得意様です」
「そうですよねー、あんな風にお店の中で食事できるなんて私、知りませんでしたもん」
「……彼氏、ですか?」
 自然な流れのつもりで聞いた。