「え゛、なんで??」
『心配性なんです。それでだから。すみませんけどお願いします』
「まあ、多分会わないよ。だから大丈夫だと思う」
『ですよね。あー、良かった。それにしても楽しみぃ!! 先輩、すっごくおしゃれして行った方が良いですよ』
「どんな服?」
『もちろんドレスですよ』
「結婚式みたいな?」
『来賓の方ですけど』
「あー、はいはい。あるある大丈夫」
『だから金曜日の夜迎えに行きますね。7時くらいかな』
「仕事は早上がりで十分だね。オッケー。いいね、なんか久しぶりで」
『でしょー!!』
 流れで久しぶりという言葉が出たが、最上と同じタイミングで着飾ることなど総会くらいしかなく、ある意味初めてのおしゃれ着遊びであった。
 そんな成り行きでつまり今この、自分より明らかに10近く若い男女が高価な物を全身に纏い、酒を飲んで遊んでいる場なんかに来てしまい、少なくとも香月だけは後悔してしまっていた。どう見ても大学生前後、中には高校生もいるのではないだろうか。おそらく、一番年上は、私……。しかも、一番地味なのも、私!
 最上はというと、知り合いらしい千(せん)という男に連れられて部屋の隅でビリヤードを楽しんでいた。
 男はこのパーティの主催者である四対財閥の息子の友人らしく、とにかく金持ちそうで背の高いハンサムな若者であった。クールな整った顔つきなのに、それをうまくカバーするように、柔らかい笑顔を見せる。なるほど、これで最上も気を許したのだろう。なんでも、和菓子屋で意気投合して名刺をもらったというから、不思議な縁だ。
 その千に、最上と同じゲームに誘われたが、香月はもう少しラウンジで飲みたいと断ったのだった。一緒に行ってやるべきではない。むしろ、来るなという雰囲気を読み取ってしまった自分は間違っていたのかもしれないが、今確かに自分はのどが乾いているのだと、意味のない言い訳をさっきからずっとしていた。
 最上は今日、ここへパーティならぬ、あの男に会いに来ているように見えた。
 それが勘違いであってほしい。
だってそんなこと、絶対にあってはならないから……。
 そんな心配をしながら、幅10メートル以上もある巨大なガラス窓の外をぼんやり眺めていた。今日、最上はまさか帰るつもりがないのだろうか……。旦那には一体どんな言い訳をしてここへ来たのだろう。