「あ、すっごいお弁当ですね!!」
 とにかく、褒めよう!!
「ああ……。まあ、美味しいんですけどね」
 相手は照れているのか、笑顔のわりに、嬉しそうではない。
「……奥様の手作りですか? 素敵ですね」
「いや、……恥ずかしながら、実家の弁当です」
 その受け答えがあまりにも丁寧で、弁当の母親が、着物に白い割烹着を着ていると早くも予想してしまう。
「あ、そうなんですか。でもすごいです!! 私、そんなすごいお弁当初めて見ました!! きっとお母さんはものすごく料理がお上手なんですね」
 ああ……私のランチったらなんて不健康……。だと思われただろうなあ……。
「いえ……僕、実家が和菓子屋で、正確には手伝いの人が作ってくれるんです」
「へえー……和菓子……」
 彼はなにやらおもむろに、弁当の袋からまだ小さな弁当箱を取り出した。果物でも入っているのだろうか。
「こういう感じです」
 その小さな箱の中には、羊羹だろうが、四角の羊羹の上にそれはそれは丁寧な細工が施されており、あやめをイメージしているのだろう、紫の花が散りばめられていた。溜め息が出るほどである。周囲は薄いビニルで巻かれており、店にあったものを入れて来たようだった。
「うわあ……食べるのがもったいないですね……」
「良かったらどうぞ。こんな入れ物に入ってますけど、朝作った物ですから」
「ええ!? い、いいんですか!?」