最初は、あまりにも普通の生活を送っていることが面白くて、また、珍しかったが、そのうち、距離を置きたいと感じるようにもなった。それらを紛らわすように、幾人か女を抱いた。連絡は途切れ途切れになり、会う度に、求め、求められてしまうが、その、自らの感情はなるべく出さないように注意した。のめりこむのが怖かったのかもしれない。
 もうその時は既に、のめりこんでいたというのに。
 そのせいで、香月を傷つけた。
 自分の下らないプライドのせいで。
 その代償は大きい。
 後悔の念は一層強くなり、結婚という言葉を出した。香月が一番望んでいるのに、望んでいない方法。
 とりあえず、結婚届はこちらのサインをして渡してはみたが、出さないことは、重々承知だった。勢いで出してしまう確率は、二割もなかったと思う。
 そして、その予想は見事に当たり、今更出す確率はもっと減った。
 タバコを取り出して、一口吸う。
 香月はおそらく、この先も結婚の理想に囚われ、結婚することはできないだろう。踏み切ることは、しないだろう。
 それは、相手が誰であっても同じ。
 体の傷がまた、なおさらそれを後押ししている。
 だが、それはそれで、この俺から離れないのなら、好都合だ。