絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ


 香月は涼屋からの電話を切りながら、半分以上パジャマから服に着替えていた。昨日紺野にあれほどきつい対応をしたのに、この有様である。
 右手はずっと携帯電話を握り、着替え終わったところで、玄関から外に出ながら発信ボタンを押した。
「もしもし!?」
 相手はすぐに出る。
『もしもし』
「今どこですか?」
 冷静に、冷静に。
『どうしました?』
「あなたと会ってお話しがしたいんです。私が向かいます。今、どこですか?」
『今は中央ビルの近くですが、私が出向きます。深夜の外出は危険です』
 時刻は午後10時。深夜というにはまだ少し早い。
「分かりました。じゃあ、東京マンションのロビーまで来てください」
 香月はすんなり引いた。そう、深夜の外出は本当に危険なのである。
 それから一度家に戻って着ずれを直し、30分してもう一度電話が鳴ったところで香月は下に降りた。たった30分でここまで来た。ということは、中央ビルの近くだったというのは嘘かもしれない。
 香月が降りると、紺野は既にソファにもたれかかっていた。
「早かったですね」
 そう言いながら、香月は、一度立ち上がった紺野を無視して、対面して腰掛けた。
「はい、こっちに向いていましたから。それで、お話し、というのは?」
「どうして会社の人にまで会ったりしたんですか!?」
 香月はきつく睨んだ。
「困りましたか?」