絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

『あ、ごめんなさい、キャッチです。切りますね』
「あ、はい……」
 電話は相手からすぐに切れた。
 そしてようやく、現実を認識する。
「東京警察の芹沢です。香月愛さんのことで少しお話をお聞きしたいのですが」
「え、あ……はい……どんなことですか?」
 永井は、涼屋を見ながらも、すぐに質問した。
「失礼。少し、座らせてもらっても構いませんか?」
 背後から来た、家族連れの客に邪魔にならないように提案したのだろう。
「あ、はい」
 涼屋はすぐに隣を開けた。
「ありがとうございます」
 スーツの男は、ロレックスの時計を堂々と手首から見せて、質問を始めた。いや、詰問なのかもしれない。
「昨日は大変申し訳ありませんでした。香月さんにお話しをお伺いしていたのですが、少々お怒りになられたようで」
「あ、いえ……で、何のことなんですか?」
「いえ、特に何のこと、というわけではありません。……彼女とは、よく食事に行かれるんですか?」
「いえ、昨日がはじめてです」
 永井は真面目に質問に答えた。相手が警察だと、不真面目になるわけにもいかない。
「彼女と親しい男性のことなど、知りませんか?」
「男性……」
 永井は繰り返す。
「会社の人のことですか?」
 涼屋は考えてから質問した。
「いえ、違います」