絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

　淡々としている。というのとは少し違う気がした。トーンダウンを恐れて、軽く言っている。
「……僕もあんまないですよ、長く遊びたいし」
　永井は香月の変化に気づいたのか、ようやくフォローに回った。
「同じよ、私も」
　香月はようやくにっこりと笑った。よかった、永井の無礼もほどほどにしないとな。
　そこで突然香月の携帯が鳴り出した。香月は、長い間かかってバックから携帯電話をまさぐりだし、ようやく開いたが、しばらく画面を眺めていた。
　出ようか出まいか考えているようである。
　何か、言うべきか、迷っていると、背後からスーツの男が近づいてきた。
「香月さん」
「うわっ！！」
　香月は大げさに驚いた。携帯電話を見ていたせいで、人気に気づかなかったのだろう。
「すみません、ちょっといいですか？」
　若いスーツの男はとりあえず永井を見、次にこちらを見ると確認した。
「え、まあ」
　なんとなく、返事する。
「なんですか？」
　香月は明らかに厳しい表情を見せると席を立った。
　なんだろう。そのまま駐車場まで出て行ったようである。
「誰？」
　永井が聞いてきた。
「知らない」
「社員かなあ」
　永井は座ったまま背伸びをして、窓の外を伺う。
「さあ……、見たことない。多分違うと思うけど」
「男友達？　いや、元彼っぽいかな」
　詮索好きは永井の抑制しなければいけない悪い癖の一つだ。
「……電話出るの、躊躇ってたしね」
「どうする？　俺、今の間に帰ってもいいけど」