「例えばその紺野のことにしても、俺が危険だと言ってるのが分かってないみたいだからな」
「じゃあ危険なら危険って言えばいいじゃん。それで私が、じゃあもう会わないって言えば、納得なの?」
「それはお前が決めることだ」
「えー、何? 意味分かんない」
 既に香月は食事に手をつけることをやめていた。
「何度言わせれば気が済む」
「何が?」
「……」
「何? 紺野さんが危険だから連絡するなってこと? それとも、誰にでも優しくするなってこと?」
「……いや、いい」
「何が? ちゃんと言ってよ」
「もういい」
 巽もずっとワインしか飲んでいない。
 ああ、明日の朝まで一緒にいられるはずだったのに……。なんか機嫌が悪い。
「どうする? ……帰る?」
 言ってみたもののメーンディッシュはまだ途中。
「任せる」
「任せるって……じゃあもう帰る」
 全く大人気ない……。今日は明らかに自分には余裕があった。なのに、うまく可愛い子ぶれなくて、拗ねた。しかも、食事中に。
 もちろん巽は追いかけて来ない。
 エレベーターの中で、一人大きく溜め息を付く。
 どうしよう。今からやっぱり電話して謝ろうか……。