永井とは、この課に来てから知り合ったのだが、元々は店舗にいた人間であり、長身イケメンで、寺山と並ぶほどの抜群の知名度の持ち主であり、月に一度は誰か女性の誕生日だといって、なにやらなにやらとプレゼントしているという。最近一緒に仕事をしてみて、ああ、というか、義理堅いだけ? という気がしてきたのだが、まあ、とにかく寺山とは少し違った柔らかいとっつきやすさが、ブスにでも優しいという男前を作り出しているようであった。
「へー、モテモテなんですね、永井さん」
 香月は何気にそう発した。
「違いますよ」
 永井は185センチから見下ろしてくる。
「うそつけ、この前も誰やらに告白されたとかどうとか、あー、有名だぞ!」
 佐々木の、苦しいまでの若者きどりが、笑えてくる。
「あー、あれはね……」
 2人とも、真相を聞こうと、押し黙る。
「いや、噂ですよ、噂」
「そこまで言っといて噂だなんて。なあ! 香月」
「そうですよ!」
「いや……噂なんですよ、噂。すぐに噂は広まりますからね」
「まあ、そうだなあ」
 佐々木も香月も、もうなんとも言葉が出なくなってその場でお開きになってしまった。これが初めて、香月が永井一樹と一番最初に会話らしい会話をした時のことである。