「あ、仲良かったのか?」
「前は、まあ……」
「永財閥のお嬢様なんだってな。なんか、会社を始めたらしい」
「え、会社……何のですか?」
「さあ、そこまでは知らないけど……」
「えー……全然知らなかった……」
 永作が作ってくれた、アップルパイを佐伯と食べたことを思い出す。
 あの時ははっきりと依田が好きだと公言し、世間を(といっても、2人だが)驚かせてくれたが、考えてみればあれ以来仕事以外では会ったことがない。
 噂も聞かなかったせいで、話題にも上らなくなっていた。
「……そっか、じゃあ、帰るべきところに帰ったって感じなんですかね……」
「まあ、そうかもしれないな」
「お金持ちだってことは知ってたけど、詳しいことは全く……、あの、依田さんって知りませんよね……」
「倉庫の依田?」
「あ、はい! 知ってるんですか!?」
「うん。親戚だよ」
「えー!!
 あ、で。永作さんが依田さんを好きだとか言って、仲良くなってたりしたんですよ、その昔」
「へえええー! そんなことがあったとは……。けどまあ、月とすっぽんというか、雲泥の差とはこのことかなあ……今も続いてたらすごいけど」
「……依田さんも全然見ませんもんね……」
「元気にはしてるよ。けど、俺も年が離れてるから恋愛話もしないしなあ。まあ、近くても、身内だからしないだろうけど」
「何か面白い話でもあるんですか?」
 背後からゆっくり現れたのは、まだ若い平社員の永井一樹(ながいいつき)だった。彼は、マグカップと、紅茶のティーパックの箱を手にしている。
「紅茶党?」
 佐々木が聞く。