絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「知りません、分かりません。本当に、私は何も知りません。結婚したかどうかなんて、本当は分からない。だけども、こんなに若い女の人なら……、誰かと結婚して、生きていてもおかしくないなと思ったんです。家族に連絡しないのは何故だかわかりませんけど……もしかしたら、家族には言えないような……相手なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」
「相手のことは全く知りませんか?」
「知りません。分かりません……。遠い記憶の話で、ほとんど覚えていません。私には全く関係のない話ですから」
「遠い記憶の話、とは?」
 紺野は手を緩めない。
「妹が失踪したのは、2年前です」
 坂上は具体的に時間を遡るよう迫ってくる。
「……私からすれば、長い時間です」
 それだけ、答えると、坂上は質問を続けた。
「他に、相手の特徴は?」
 政治家の婚約者……という話が頭を巡る。
「待って下さい。遠い記憶の話、とは?」 
 紺野は坂上を睨んでからこちらを見た。
「……別に、意味はありません」
「嘘だ。あなたは知っている。以前に巽からそのような話を聞いたんですね?」
「違います! あの人は……私に関係なのないことは、話しません」
「じゃあ遠い記憶の話、というのは?」
「……そんな気がしただけです」