絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「聞き覚えなどないですか、よく考えて下さい」
「ありません。どんな漢字ですか?」
 そうだ、それはまだ聞いてない。
「一斉の斉に藤に、隆起の隆、義理の義です」
「さあ……。何歳くらいですか?」
「37歳です」
「……全く。もしかしたらお客さんで接客したことがあるかもしれません。けど、覚えていません」
「あ、そうですか……」
 紺野は、その可能性があったか、と言いたげである。
「香月さん、あなた今日4時頃退社されましたが、どこへお見舞いに行ってたんですか?」
 宮下に嘘をついておいたことが、ここになって救いになるとは思ってもみなかった。
「いえ。さぼりたかっただけで……、どこへもお見舞いには行ってません」
「嘘だ。あなたは中国マフィアの幹部と会っている」
「……」
 目を逸らした。紺野に言っていいのかどうか、分からない。
「我々は、動き出した奴らの車を追っていました。だが、中央ビルで停車した後、すぐにまかれました。あなたを乗せた後で。その後、発砲事件に気づき、我々はあなたを見失いました」
 香月は考えていた。何をどう説明しなければいけないのか、その理由は何なのか、を。
「紺野さん、あなたが今聞きたいことは何ですか? 私は何をしゃべらないといけないのか、それが分かりません」
「……、リュウ……は今どこに」
「知りませんそんなの。私には関係ありません」
「あなたから奴に連絡を取ったんですか、それとも相手からですか?」
「そんなこと聞いて何になるんですか。私は何も知りません」
「……では、巽光路はこの件にどのように関与しているんですか?」
「知りません。その、斉藤という人も私は知らないし、どうして私が狙われたのかも知りません」
「どうして狙われたと思ったんですか?」
 しまった……。
「……そんな気がしただけです」
「まあ、それは斉藤に追々吐かせます」
 紺野はずっと目を逸らさない。香月はそれが息苦しくて仕方なかった。
「僕には、マフィアの奴らと巽があなたを中心に動いているようにしか見えない」
「そんなわけないじゃないですか。私はただのOLです」