絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

 すぐに廊下を曲がり、また廊下を走り、抱えられた両脇が痛いと思いながらも何も言うこともできずに、裏口に着いてしまう。
 あそうだ、私、裏口に用があったんだ。
 黒塗りの車を見て思い出す。そうだ、今から阿佐子の墓参りだ。
 車の後部座席に慌てて押し込められ、バタンと扉が閉まった。
「騒がしいですね」
 黒いスーツをラフに着こなしたリュウはこちらを見ず、サイドウィンドの外を見た。
「……」
 息を整えるので一苦労だ。
「何があったんですか?」
 彼はこちらを見ず、今乗り込んだ助手席の男に尋ねた。
「分かりません。何者かが発砲し、その女性を狙ったのですが、何者かが庇い、撃たれました。致命傷は避けていると思います」
「……心当たりは?」
 リュウはこちらを見た。その、場違いなほどに端正な容姿に、ぞくりとする。
「えっ……」
 会話が全く分からない、中国語ではなく、もちろん日本語だった。だが、リュウのその美顔に見とれてしまい、全てのことを忘れてしまう。
「まあ、今はゆっくり思い出話でもしましょうか」
 彼は突然優しい表情を見せた。ああ、この人はこういう顔をしたな、というのを思い出す。
「しばらくぶりですね……。お元気そうで何よりです。ちっとも変わっていない、そんな印象です。
 阿佐子さんのことは本当に残念です。ですが、墓地に行く機会がなかったので、今日あなたが提案してくれて、本当に良かったと思っています。一緒に行ってくれると心強い」
「えっ、あ、ああ……、そうですね……」
 リュウのしぐさ、いや、存在そのものがまるで別世界のようで、恐ろしいほどに美しいとはこのことなのかと、圧倒されてしまい、会話が全く頭に入って来ない。
「巽とは、まだ関係が続いているようですね」