『ううん……私も驚いて……。でも、ごめんね、刑事だって知ってたけど、本人がどうしても明かしたくないって言うから。刑事って言っただけで皆警戒するから友達も作りにくいんだとは理解してて。それで……』
「今井さんが悪いとは思っていません」
『……』
「ごめんなさい。……明日も仕事だからもう寝ます」
『……そう、ね……。また、明日ね』
「はい」
 その夜、巽から電話がかかってくることはなかったし、今、会社に来て、ようやく心が落ち着いた、というかなんというか。
 午前10時で香月の今日の仕事はほとんど終わったといっていいくらいだし、やかんのお湯も丁度沸いた。
 無心でとくとくとポットにお湯を注ぐ。
「今は京都に来ています」
 紺野の声が突然蘇る。
 そうだ、京都へ行こう。
 迷う暇はなかった。
 すぐに携帯を出し、番号を探す。そう、ホステスになったときに過去のデータは全て消したつもりだったが、SDカードに、一部だけ携帯番号とアドレスのバックアップが残っていた。それをまた今更新機種に移し変えるなんて、女々しいかもしれないと思いつつ、これからの飛躍につながると信じた。
 その番号が今生きてくるのである。
 香月はセイ・リュウの部下、タオに繋がるであろう携帯に電話をかけた。もしかしたらもう番号が変わっているかもしれない。
 だが、その不安はすぐに消し飛び、コール音はすぐに聞こえ、2回目のコールで相手は出た。