「すみません……思ったようにいきませんでした」
 車内で紺野は南田上司に素直に頭を下げた。坂上はさっきからずっと、後部座席で黙っている。もしかしたら、徹夜続きで、眠っているのかもしれない。
 南田はしばらくうんともすんとも言わず、ただタバコをふかしていた。そのお陰で、車内に煙が溜り、少し目が痛い。もう5センチ、サイドウィンドを下げる。
 南田はずっと何も言わない。長い沈黙が続くと、こちらも眠くなってきてしまう。香月はもう、眠っただろうか。
「巽光路が彼女に本気だとしても、まあ、頷けるかな……」
 南田のようやくの一言。
「……、本気でしょうか?」
「中国とのつながりがあるならなおさらだろう」
「彼女は否定してました。その、つながりがあることは否定しませんでしたが、自由にできる、というところは否定しました」
「……今日のは表の顔だったのかな……。完全に普通のOLだった」
「僕も、それ以外の顔は見たことありません。けど、今日も全くその、裏らしき気配も見せませんでしたね」
「……、天才か、あるいは、ただの凡人か……」
「その凡人を巽が買う……、ちょっと信じられません」
「その凡人でもいいと思う時があるのかもしれんし、ないのかもしれん……、さあ……な……」