「まあ、そこが嫌なら、他って手もあるし、あんまり考え込まない方がいいと思う」
「他……」
 今更就職しなおすだなんて……。
「四対グループ、受けてみるのも悪くないと思うけど?」
 彼は全くこちらを見ず、湯のみの茶に口をつけている。冗談なのか、どうなのか……。
「やだよ、知り合いが社長だなんて」
 言ってみて思う。なんとも、贅沢な話である。
「そっかなあ。まあ、考えても俺にはその気持ち、わかんねーけど」
 でしょうね!
 その直後、信じられないことに、四対は私を残して一人で帰ってしまった。本当に食事に来ただけだったらしい……。
「帰りの車、おいとくから」
「え?」
「帰り。俺の車で帰れ」
「えっ!? あなたはどうやって帰るの??」
「俺は俺の車で帰る。もう一台連れて来てるから」
「えっ!! いーよ、いーよ!!」
「気にすんな。先に帰るのを悪いを思ってる証拠だよ」
笑いながらも四対は、ついに20分で退席した。悪いことをしたな……。それが最初に頭にめぐったものの、目の前の豪華な食事に全てを忘れ、一人ゆっくりとディナーを楽しみつくしてから、四対が用意してくれた車に乗り込んだのである。