「負けなしと思っていたとは、驚きだな」
 意外な返事が返ってきたことに、香月は一旦間を置いた。
「……だって、お金持ちじゃん。高学歴。傲慢。どこをとっても負けなしの人生」
 言いたい言葉はたくさんあったので、次のセリフも考えてあったが、
「傲慢とは、心外だが」
 すぐに反論された。
「お前が見ようとしていないだけで、お前と過ごしていた時間の中で、俺にとっての負けと言えることは、あった。些細なことを含めれば何度もあっただろう」
「……いつ? 嘘……株で損したとか?」
「お前の人生が負けの人生だと、お前に思わせていること……」
「え、何?」
 しっかり目を見て聞いた。
「お前を守りきれなかったことだ……。あの日、追いかけなかったことを今でも後悔している」
 …………。
 言葉を失って、俯いた。
「……でも、あれは、別に……あの日、喧嘩したからとか、そういうことに関係なく……。どう転んでも私は最上を助ける選択をしたかもしれないし」
 息をするのが苦しい。