絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

香月は一度こちらを振り返ると、「すみません、ご馳走様でした」と頭を下げてから、2人についていった。
 俺じゃ、役不足ってか?
 朝比奈は仕方なくその3人の少し後ろから着いて仕事に戻る。
 一番最初に誰だか知らない男がエレベーターの前で別れ、次に香月は企画部に戻った。
「今の、誰ですか?」
 朝比奈はすぐに真藤を捕まえて聞いた。
「びっくりしますよ。何せ、あれで日本を動かす男ですから」
「えっ?」
 誰!?!?
「だっ、誰ですか?」
「四対グループの次期社長です」
「えっ、あっ……い……あの人が!?」
 朝比奈は意味もなくエレベーターの方を後ろを振り返った。だがそこには誰もいない。
「もうほんとに、あの人が、のレベルですよ」
「……香月さんと仲がいいんですね」
「ああ、あの2人は偶然プライベートで出会ったらしいです。友人の紹介……というか。遊び仲間だそうです」
「へえ……遊び、仲間……。ああ、今も飲みに行くとか言ってましたね……え、あれですか? それもその……、幹部同士の会議とかに参加して……」
「えっ? 幹部の会議?」
「えっ、ああ、いやその……。幹部のその副社長のことをオヤジだなんて……」
「ああ、まあ、昔から知ってますから」
「……そうなんですか……」
 庶民の自分が身分の違いにがっかりしたって仕方ないのは分かっている。
「じゃあ……」
 実は、朝比奈が真藤とプライベートな会話をしたのはこれが初めてであった。
 しかし、幹部の会議のことを、この真藤も知らないとなると……。
 謎はますます深まるばかりである。