絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「ううん……。幹部の。同席させられるの。そういうの、嫌いなのに」
 それは、副主任の自分でも知らない事実であった。幹部同士の会議に香月を同席させている!? どう考えても、それは体を売りにして……、今まさに嫌がっていたのではないか!?
「それは、その……」
「何?」
「なんというか……その、それで契約をとったりするんですか?」
「え、いや、そういうノルマみたいなのはないんだけどね」
「はあ……」
 自分の質問にの仕方が悪かったのか、ますます分からなくなる。
「まあ、最初は話し聞くだけでも勉強になるって思ったんだけど、実際ただの世間話しかしてないし、村瀬部長がいないと私、心細くてさあ」
「それはそうでしょうね……」
「嫌いなのに、そういうの。
 それに私、そもそも本社になんて来たくなかったし」
「え……そうなんですか?」
「うん……最初から嫌だった。それでも、営業部の時はなんとか……成瀬さんが……分かるかな、営業の」
「はい、茶色い巻き毛の……」
「うんそう……。その、よくしてくれて、ついていけたからよかったけど、今は全然……。重要な内容任されるのも怖いし、夜に接待につくように言われてから、なおさら嫌……。やっぱり店舗の方が良かった。……昔の……本店でいられた時が一番良かった」
「ええと……宮下部長が店長だった時ですか?」
「宮下店長。佐藤副店長、矢伊豆副店長……あの頃が本当良かった」
「けど、本社には大抜擢じゃないですか。あの城嶋さんが推薦した、って聞きましたけど……」
「うん、らしい。けど、期待に応えられなかったと思う。なんか……プライベートでバタバタしたり、色々したから。
……今は、……多分、佐藤主任は、私に仕事を回してくれてるんだと思う。牧先生には本当に嫌われてるんだと思うけど。だから、牧さんが私に仕事を頼んでくれてるのその偶然と、佐藤主任の……なんというか、そのお膳立てがなかったら、何してたんだろうな……」
 言いながら香月が立ち上がり、カップを捨てに行ってくれたので助かった。実は返す言葉が見つかっていない。
「なんだそのツラ」