朝比奈浩二は、今日の飲み会に香月愛が参加した場合、一時間で切り上げることを、佐藤主任が香月を誘うであろうと予想をした瞬間から決めていた。
理由は……何だろう。嫌いだから、だろうか。
エレクトロニクスに入って5年になるが、2年先輩の香月のことは、本社入社して半年も経たないうちから知っていた。相当の美人で性格もいい女性が、最小店舗にいる、と。確かその噂を、当時の宮下に聞くと、「ああ、有名だね。僕も知ってる」と当たり障りない返事をしてきたが、後になって付き合っていたと知る。今は宮下代理も別の人と結婚しているので2人は付き合っていただけなんだろうが、なんともまあ、そんな噂さながら、社員を喰ったのも、1人や2人じゃないんだろう。
そうだ、俺はこういう女性が嫌いなんだ。
美人だからって調子に乗って、今だって、完全に佐藤に色目を使っていた。それに、ここ最近数ヶ月休みを取っていたのにもかかわらず、こんな大事なプロジェクトにお茶汲み同然で参加させるなんて、幹部にまでそのエキスはいきわたっているのかもしれない。
多分俺の勘では、牧だけは俺と同じにおいがする男だと思う。世の中、美人が好きな男ばかりじゃないってことだ。
さて、何故どうしてそんな飲み会にわざわざ間接的に香月を誘ったのかというと、隣にいた女子社員に、他にも誰か誘って、と言われ、佐藤を誘ったら、佐藤が香月を誘ったにすぎない。そう、俺の意思で誘ったわけではない。
だから困る。何も意識していないはずなのに居酒屋の座敷の大部屋で彼女が隣に座り、完全に端正なその顔をこちらに向け、
「朝比奈さん、これ食べます?」
と、ほろ酔い顔で聞かれても。頬をピンクに染め、少しとろんとした眼で見つめられても、
「いや、もう帰りますから……」
「え? ああ、そうなんですか」
 香月はぐるりと部屋中を見渡した。
「私も帰ろうかな」
「えっ! けどまだ……」
 香月はバックから携帯電話を取り出した。その機種は最新である。元々フリーで携帯にも携わっていたようなので、興味があるのだろう。
「電話かかってくるかもしれないし。もうかえろ」