一度は消したはずの電話番号が、まさか、ユーリに写真の印刷をお願いしていたSDカードのデータの中にバックアップが残っていたことを思い出せたのは、それだけこの想いが強かったせいといえる。
 宮下に、直接会いたくない。
 突然辞表を出したが受理されず、休職扱いになっている流れは、彼が一番よく知っている。
 その宮下に、今更なにをどう説明して会社に戻してもらえるよう話をしていくべきなのかが分からなかった。
 全てをありのままに言う必要はないが、掻い摘んで、分かるようには言えるようにしておかなければならない。
 溜息は、深い。
 嫌なら、エレクトロニクスなんかやめればいいとは思う。
 ……そんな想い、嘘に決まっている。
 とにかく、今直接会うのが嫌なら、電話をしなければいけない。
 だが、何度かけたか分からない電話番号も、さすがに記憶してはいない。
 そして思い出したのが、バックアップだった。そして、逆に、ユーリはSDカードの存在と写真の印刷のことを完全に忘れていた。
 宮下の電話番号が、ここ数か月で変わっている可能性は低い。
 6月第3木曜の午後2時。香月は、意を決して発信ボタンを押した。
 7回目のコールで出なかったら切ろうと最初から考えていたが、宮下は恐ろしく早く、2コール目で簡単に出た。
「もしもし!? 香月か!?」
 その声があまりにも懐かしく、何の言葉も出なくなる。
「もしもし!? もしもし!?」
 何か言わなければ。
「……もし、もし」
「ああ……。無事だったんだな」
「……すみません」
 宮下のあまりにも懐かしい声と記憶に、ただ声が震えた。