「君が来てからもう一年か」


ふむ、と、無精髭を撫でながら、マスターが呟いた。

私はちょうどマスターにコーヒーを入れたところで、そうですね、と返事をする。


「何かお祝いをしないとなぁ」


「お祝い、ですか」


何を祝うと言うのだろうか。

人間はやたらと記念日を作りたがるものらしいが、私が来て一年経ったからといって、何も特別ではないと思うのだが。

だがマスターはやけに乗り気で、息子もそうだったものだから、否応なしに私の誕生日が企画された。