「…先輩のこと、知ってたんだ?」
恐る恐る聞くと、真由は慌てて首を横に振った。
「あ…いえ、あの…大雅さんに聞いたんです」
「あー…」
…あの馬鹿。
ほんっとに、タイミングが良いっつーか悪いっつーか…。
「…んじゃあ、俺が言うことはもうあんまり無いかもな」
だけどそれでも、ちゃんと話そう。
先輩のことや、水族館であんな態度を取ってしまったこと…、ちゃんと話そう。
時間はある。
イヤと言うほどある。
ふ、と息を吐き出して、静かに天井を見つめる。
「沢良木 涼太、だっけ。
アイツの名前を聞いた時、確かに昔のことを色々思い出した。
…だけど、“こんなところで言うことじゃねぇだろ”って思ったから、だからやり過ごそうとした。
でも内心動揺しまくりで。
そんな時にお前が聞いてくるから…、なんかこう、上手く返せなかったんだ」
本当はちゃんと話がしたかった。
だけど上手く行かなくて、時間だけが過ぎていってしまったんだ。
「…沢良木先輩は俺の兄貴みたいな人で、すげー可愛がってもらってた。
あの人、元カノと同い年だからさ…、だから色んなこと相談して、いっぱいアドバイスしてもらってたな」
結局、その関係は長く続かなかったけどね。
「……先輩は俺よりも元カノのことを知ってて、元カノも先輩の話をすげー楽しそうにしてた。
今思えば、初めから元カノと先輩は好き同士だったのかもしれない」
失笑に近い感じの笑みを浮かべ、また小さく息を吐く。
「…先輩とは何も話さないまま別れたけど…、でもまぁ、今も二人は一緒に居て幸せみたいだから、だからそれでいいよ」
沢良木先輩と美咲は、今も一緒に居て幸せに暮らしてる。と大雅に聞いた。
だからそれでいい。
俺は俺の道を行き、先輩と美咲は二人の道を行く。
幸せに暮らしてるのなら、それでいいんだ。
「…過去のことをいつまでも言ったって仕方ないだろ?
そりゃあ時々は思い出すかもしれねーけど。でもさ…、」
「……でも…?」
不思議そうに首を傾げる真由。
それを見つめ、ふっと小さな笑みを浮かべた。
「過去のことよりも、お前と一緒に生きてる“今”が大事だろ」



