「ただ、花緒の事情を知ったら、また花緒は悲しい思いをするんじゃないかって。それは気にしてるんだ、俺たち」
「……悠介?あのね、私を捨てた事に罪悪感を持てとも後悔しろとも思わない。
でも、私の幸せに、悠介は関係ない。私と……なつ……彼で幸せになるから、一切気にしないで」
立ち止まって悠介の顔を見上げながら、必死で感情を殺しながらそう言った。
苦しそうに歪む悠介の顔、昔は好きだったけれど、今ではもう見たいとも思わない。
……会社にいる限り見てしまうけど。
「悠介が受け入れられなかった私の事情とやらを、彼はちゃんと受け止めてくれてるの。
だから、もう心配も同情しているふりもしなくていいから。
って、みちるちゃんにも伝えておいて」
握りしめた両手が震える。
ぐっと視線を強くして、私の言葉をはっきりと悠介に投げ捨てた。
何かを言いたそうに口を開いたけれど、結局何も言わない悠介に
『じゃ、先に行くから』
そう言って会議室へ体を向けた。
途端に掴まれた右腕。
振り返ると、悠介が真剣な顔で私を見ている。
「きっと、俺だけじゃないぞ。花緒の事情を重荷に感じる男は俺だけじゃない。だから……」
「だから気をつけろとでも言う?」
「いや、そんな風には……」
掴まれた右腕を強く払って、再度向かい合った。
「私は、今ほど悠介と別れて良かったと思った時はない。正直、すっきりした。じゃ」
もう二度と話したくない。
私の事を心配しているように見せているけれど、結局は私を捨てた事が特別な事ではなくて、男なら誰でもする事だと言いたげな感じ……。
自分が正しいと、そう思いたいだけの不毛な会話だった。

