週末の薬指

翌日の日曜日、夏弥は朝から何かを考え込みながら、何度も私に視線を向けてきた。

話したい事があるとすぐにわかる視線が何度も私を見つめて、その度に視線を返すけれど。

結局何も言わずに目を伏せるだけ。

「どうかした?」

訳が分からなくて、そう聞いてみると。しばらく黙ったままで、そして。

何かを思い切るような声が返ってきた。

「結婚しようか」

「……」

「日曜日でも、役所は婚姻届を受理してくれるし、今日入籍しようか」

全く予想外の、理解する事が難しい返事が返ってきて、瞬きもせず、じっと見つめるしかできない。

「花緒のおばあちゃんには、昨日仕事の帰りに話してきたんだ。ちゃんと許してもらってるし、花緒の事をよろしくって……頭下げてくれた」

「よろしくって……そんな突然言われても、私の気持ちはどう……」

どう思ってるのかと聞こうとした時、夏弥はさっと片手を前に出して、私の言葉を遮った。

そしてソファから立ち上がって寝室に行ったあと、何かを手に戻ってきた。

カーペットに座り込んで、ソファにもたれている私の横に座ると、夏弥は緊張を含んだ視線で私を射る。

そして、小さく息を吐いた。

「あとは花緒のサインだけだ。おばあちゃんも快くサインしてくれたし、俺の両親も認めてくれてる。
っていうか、俺が結婚したいと思う女なら反対する理由はないって言ってるから。その言葉通り、あとは花緒のサインがあればすぐにでも役所に届けられる」