週末の薬指

不安げな夏弥の気持ちを盛り上げるように、明るく笑った。

今みたいに、何かあればちゃんと話してくれればそれでいい。信じられるから。
そんな気持ちを込めての笑顔を見せたつもりだったんだけど、夏弥は微妙な顔で小さく息を吐いた。

何か、気に障ったのかな。

「正直、花緒がどう思おうが関係ないんだ」

「は?」

私の頬に手の甲をあてて、ゆっくりと優しく撫でる夏弥の言葉がよくわからない。

関係ないって?

「美月 梓との事は、本当に何も後ろめたいことなんてないから、そのことで花緒が誤解しようがどう受け止めようが、俺は花緒を手放すつもりはないから気にしないんだ。
花緒が泣いて悲しんで俺から離れようとしても、それを許すつもりもないし。
でも、心配なんだ」

まるで、私の気持ちや人格を無視しているような言葉を聞かされて、それはそれで驚いたけれど。

一方ではそこまで私を求めてくれる思いは重荷だと感じながらも、その重荷が嬉しくてたまらない。

好きな人から『手放すつもりはない』と言われて嬉しく感じないわけがない。
じんわり大きくなる幸せな感覚に浸って、口元も緩んでしまう。

そう単純に嬉しがる私を再び夏弥は抱き寄せ、私の背中を優しく撫でながら、低い声で囁いた。

「美月 梓が、花緒に何かしかけるんじゃないか、それが不安なんだ」

「わ、私に……?」

思いがけない言葉に、声が裏返ってしまった。

「そうだ。今はまだ花緒の事気付かれてないみたいだけど、結婚すればすぐにばれるし、柏木から何か聞くかもしれない。そうなったら、何をしてくるか……不安なんだ」

そう言った途端に、夏弥の顔が近づいてきて、気づけば唇が重なっていた。

私の頬を両手で挟んで、まるで私の存在を確認するような深いキス。

二度と放さないと、言葉だけでなく唇からも教え込まれているように、何度も何度も絡み合う舌の動きに必死についていく。

「俺が、守るから、絶対に離れるなよ」

息をする合間のその言葉に更に煽られながら、私は夏弥の背中に一生懸命しがみついていた。