週末の薬指

梓さんの一方的な想いなら、仕方ないと思うし、夏弥にその想いを受け止めるつもりがないのなら、それでいいのに。

そして、二人の間に何もないのなら、私には何も気をつかわなくていい。

けれど、私に気をつかう必要はないと言おうとした時、

「ここ最近、梓が俺の周りに現れるようになったんだ」

「え……?」

「多分、柏木から聞き出したんだろうけど、このマンションで俺を待ち伏せする事が何度かあったし、出張先のホテルにまで来たことがある」

私の肩を抱くように両手を置いて、ゆっくりと話す表情は真剣で、梓さんの行動によっぽど困ってるんだとわかる。

この部屋に入ってきた時の夏弥の様子とはまるで違う重い雰囲気に、戸惑いは隠せない。

梓さんがいても逃げ帰らずにこの部屋で待っていた私を、子供のようにからかいながら抱きしめてくれた夏弥。

ちゃんと彼を待っている私の事を、『それほど俺が好きなんだな』と軽く笑っていたのは。

私がこの部屋にいて、ちゃんと夏弥を待っていた事が嬉しくて仕方なかった裏返しなのかもしれない。

そして、梓さんが近くに現れることによって、私との関係が悪くなる事を心底不安に思っているんだとわかる。

夏弥の表情から見える不安はきっと、私への不安だ。

「彼女は……美月 梓は、きっとまた俺の周りに現れると思う。
さっきも、俺にはその気がないとはっきり突き放したんだけど、『また来る』とはっきり言って帰っていったし、それに」

「……それに?」

「ああ、5年前よりも何か思いつめてるようなんだ。だから、心配なんだよ。花緒が」

「え?私?私なら大丈夫。ちゃんと夏弥の事を信じてるし、何かあったら教えてくれれば、それでいいよ」