週末の薬指

一度溢れ出した悔しさは、それまでどうにか抑えてきた重い感情に反応して更に大きなものとなる。

私を強く抱きしめる腕は微かに震え、首筋に感じる吐息はかなり熱い。

それだけ高まった気持ち全てを、私自身が受け止めていると思うと妙にうれしい。

夏弥にとっては悔しくて切ない過去によって表に出された感情は、私の中では不思議と穏やかさを呼び起こす。

申し訳ないけれど、こうして負の感情をダイレクトにぶつけられて、私の体温を感じて震えている夏弥をじかに感じていると、優越感に似た思いが生まれてくる。ごめんね、と思いつつ、それでも私の心は嬉しさで溢れる。

「で、梓さんは、夏弥の事を手に入れたの?」

夏弥の言葉から感じる強い悔しさを受け止めた後では、そんな事ないとわかるけれど、普段の夏弥の強気な言葉を真似るように聞いてみた。

「ばかじゃないのか?そんな事あるわけないだろ?俺の事見た目だけで選んで、俺にその気がないとわかると意地になってるだけの女。好きになるわけない」

「意地?」

「そう、CM撮影が終わってすぐに好きだって言われたけど、俺にその気はないし、すぐに断ったんだ。
それでも自信があったんだろうけど、何度か食事に誘われて、断って、の繰り返しだった。
3か月くらいそんな関係が続いて、最後は『お前を好きになる事はない』ってはっきり断ったらあっけなく離れてくれたのにな」

苦しげな息を吐き出して、私の体をそっと引き離した。私の顔を覗き込む瞳はどこか不安げで、微かに揺れている。

私がどう感じているのかを探るように、まっすぐに向けられた視線の意味が分からない。