週末の薬指

ちゃんとこの部屋に帰ってきてくれるのかな。

この部屋には帰らずに、梓さんと二人でどこかに出かけたりして……。

「それは、絶対に嫌だ」

ぐっと目を閉じてそう呟いた。

「何が嫌なんだ?」

「え?」

突然の声に目を開けると、リビングの入口にもたれながらネクタイを緩めている夏弥さんがいた。

怪訝そうな顔を私に向けているその姿は相変わらずの格好良さで、こんな気分の時なのに、どきっとしてしまう。

そして、とんでもなく、夏弥さんに惹かれている自分に気づく。

「疲れてるなら、ソファじゃなくてベッドで寝ればいいのに。遠慮しなくていいぞ」

夏弥さんは、ソファに起き上がった私の隣に来ると、私の腰を抱き寄せながら腰を下ろした。

お互いの体温を感じ合う距離に並んで、慌ててしまった私に構う事なく夏弥さんはその整った顔を近づけると。

「ただいま」

吐息とともにそうささやいた。

「お、おかえりなさい」

「もいっかい」

「え?」

「今の、もいっかい」

「……おかえり?」

「ただいま。花緒」

夏弥さんは嬉しそうに大きく笑うと、私の体を抱きしめながら唇を重ねた。

「っ。な、夏弥……さん」

突然のキスに驚いて、思わず夏弥さんの胸を押し返そうとするけれど、その手すら夏弥さんの手に拘束されて動けなくなった。

後頭部に回された手がぐっと押し付けられて、否応なく夏弥さんとのキスが深くなっていく。

差し入れられた舌の動きに戸惑いながらも、私の舌も少しずつからめとられていく。

何度も交わしたキスだけど、何度交わしても心地いい。

夏弥さんの経験値の高さゆえの心地よさかもしれないと思うと気持ちは落ち込むけれど、それ以上に染み入る喜びが私をキスに夢中にさせる。