週末の薬指

とくとくとく、鼓動だけが変わる事なく私の中で規則的に動いているのを感じながら、少しずつ気持ちを鎮める。

リビングに置かれている大きなソファに膝を抱え込んで座って、その中に顔を埋めた。

私が抱えてきた大きな鞄はソファの脇に無造作に置かれたままで、夏弥さんの部屋に入ってから今まで、何もしていない。ただ、膝を抱えてるだけ。

ふっと気持ちを緩めると、さっき見かけた梓さんの姿が浮かんでくる。

どことなく気が強そうな容姿は、売れているモデルなら当たり前なのかもしれないけれど、見た目の綺麗さと意思の強そうな表情が合わされば、最強の女の子っていう気がする。

あらゆるショーのモデルとして活躍し、ランウェイを歩く姿からは強いオーラが放たれて、誰もがその名前を知っている。

『美月 梓』。

最近は、テレビCMにもひっぱりだこで、その笑顔をテレビで見ない日はないくらいだ。

そう言えば、この部屋に来る前に寄ったコンビニで買った雑誌の表紙も『美月 梓』だった。

それほど活躍している彼女がこのマンションのエントランスで待つ人は誰なのか。

きっと、その名前を夏弥さんや柏木さんから聞いていなければ、単純にミーハー気分で『美月 梓』をじろじろと見ていたかもしれないし、浮足立っていたかもしれない。

でも、『梓さん』という名前を何度か聞かされていて、その彼女が夏弥さんと面識があったらしいことを聞いている今、やっぱり『美月 梓』と『梓さん』は同一人物だと思っても仕方ない。

仕方ないどころか、きっと正解だ。