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「え?仕事なの?」
「悪い。住宅の営業マンには土日の休みは少ないんだ」
「そうなんだ……だからスーツを着てるんだね」
「今日はお客さんの家に行って打ち合わせなんだ。お客さんの会社が休みの日にしか時間とってもらえないし、土日のほとんどはそんな感じだ」
小さなため息とともに肩をすくめると、夏弥さんは幾つかの書類をカバンにつめながらぶつぶつ文句を言っていた。
いつも落ち着いて仕事に向かい合っているイメージの夏弥さんが子供のように不満を口にしている様子は妙にかわいくて、なんだかほっとする。
シャワーを浴びて、昨日と同じスーツに着替えていた私に寂しげな表情を向けると、
「もう行かなきゃいけないけど」
諦めたような声。
「花緒は、今日休みだよな?」
「あ、うん……私は完全に土日はお休みだから……あ、私も一緒に出なきゃいけないよね。待ってて、えっと、私のカバンってどこに置いてたかな」
キッチンのテーブルに腰かけてコーヒーをゆっくりと飲んでいた私は、慌てて立ち上がってリビングへと急いで向かった。確か、ソファの上にカバンを放り出したような気がするんだけど。
リビングに入って、予想通りにカバンを見つけると、急いで手にとった。
夏弥さんが仕事なら、私も帰らないといけないよね。私にはせっかくの休日だから、もう少し一緒にいたいけど、そんな事言えない。言えないんだ、私の性格じゃ。仕事相手じゃ文句は言えない。
残念だなと、落ち込む気持ちを押しやるように笑顔を作って夏弥さんのもとに戻って。
「私もすぐに出られますよ。……すっぴんですけど……」

