週末の薬指

強い瞳を私に向けてそう教えてくれた。
それ以上は何も言わないという雰囲気が漂っていたせいで、私からはそれ以上彼女の事は聞かなかったけれど、瀬尾さんの気持ちが『梓さん』にないと知っただけでほっとした。

『梓さん』が一体誰なのか、そして、瀬尾さんは一体、私の何を知っているのかいないのか。

心を騒がすいくつもの疑問を、どうにか心の奥に隠して。
気持ちを切り替えるように視線を移した。
カーテンの向こうからはまだ明るい光は入ってこない。
そっと時計を見ると夜明けまではまだ間がある。

「夏弥さん……」

激しく抱かれている最中、『夏弥って呼べよ』荒い息遣いでそう言われてからは、意識を失いそうになりながら何度もそう呼んだ。その度に、嬉しそうな顔をした瀬尾さん……夏弥さん……。

眠っている彼になら、素直にそう呼べると気づいた。そして、そう呼べば私の気持ちもときめいて温かくなるとも気づく。

まるで高校生のように照れてしまう自分に驚きながら、再び瀬尾さんの体に寄り添って、瞳を閉じた。

瀬尾さんの鼓動を聞くと心が落ち着いて、再び意識は夢へと向かう。
夜明けまでまだ時間があることに嬉しさを感じながら、私は眠りに落ちていった。