週末の薬指

『自分の運命を受け入れて生きている一流の女』

柏木さんに向けて私の事をそう言ってくれた瀬尾さんの言葉がふと心をよぎる。

私の事を守ろうと、思わずそう言ってくれたに違いない言葉に気持ちは温かくなって、その瞬間からは崩れるように瀬尾さんへの壁が壊れていったような気がする。

聞いた瞬間は、ただ単に嬉しくて仕方がなくて、私を認めてくれた瀬尾さんへの思いは右肩上がり、ただそれだけの瞬間だったけれど。

どうしてだろう。どうして『自分の運命』なんて言葉が自然に出たんだろう。

それほどお互いの事を知らなくて、手探りで知ろうと努力をしている最中。

少なくとも私の中には、瀬尾さんの運命なんていう言葉は生まれていないのに、瀬尾さんの中には確実にそんな言葉が存在しているようで、不思議に思う。

私の何を知っているの?

瀬尾さんの寝顔にそっと問いかけてみる。

ぐっすり寝入ったままの顔は、寝顔でさえも整っていて、少し切なくなる。

この顔を、今まで何人の女の人が見てきたのかと、知りたくもないのに考え込んでしまう自分の思考回路が邪魔で仕方ないけれど、それでも苦しい気持ちは私を攻める。

『梓さん』

瀬尾さんに抱かれる前にシャワーを浴びている時も、その名前が私の頭から離れなくて気持ちは落ち込み続けていた。

柏木さんから聞かされたその名前は、私の表情を暗くさせるには十分な力を持っていたようで、寝室で俯く私から瀬尾さんはその理由を無理やり聞き出した。

『彼女は俺を好きになったけど、俺は好きにはならなかった。彼女の心も体も受け入れたことはない』