週末の薬指


  *  *  *


ゆっくりと動いた温かさを感じて、私の意識が目覚めていく。
徐々に覚醒していく意識の向こうにある温かさは、私を抱きしめて離さないままの瀬尾さんの体温だ。

まるで子供を抱きしめて眠るように、私をぎゅっと抱え込んで、守るように。

規則的な呼吸とともに浮かんでいる表情は穏やかで、満足そうな口元は優しい。

抱きしめられているせいで、自由に身動きが取れないまま瀬尾さんの寝顔をしばらく見つめていると、その顔にある小さな傷痕に気付いた。

じっと見ない限りは気付く事のない小さな傷は、左頬と左耳のちょうど真ん中あたりに残っている。

縦に一センチほどの白い傷あとは、かなり昔にできた跡のように見えて、瀬尾さんの昔の様子がちらりと浮かんでくる。

きっと、やんちゃだったんだろうな。
男性なら、こんな傷痕だれでも持ってるものなのかな……。
そういえば、悠介の手の甲にも小さな頃に転んでできたらしい傷痕が残ってたっけ。

瀬尾さんの体全体で包まれた状態のまま、私はどうにか左手をその傷痕にのせて、そっと指先を這わせると、微かな盛り上がりを感じた。

今はもう、痛くはないだろうその傷痕ができた原因や、その頃の瀬尾さんの事を知りたいなあと、ふと感じる。

瀬尾さんと知り合ったのはつい最近で会った回数も少ない私が、瀬尾さんについて知っている事なんてほんの少ししかない。