週末の薬指

「まるで、この会社で活躍するために生きてるみたいですね」

本気でそう言ったけれど、渋沢さんはその言葉を軽く流して『そりゃどうも』で片づけた。

本当にそう思うんだけどな。

「で、ラッキーな星の下にいるのは俺だけじゃないみたいだぞ。俺が次に召集される予定のプロジェクトには花緒さんもメンバーに入ってた。今回は社内の精鋭が集められてるから成果をあげれば確実に社長賞だ。……ま、それだけが仕事をする意味ではないけどな。何か目標があるのはいいことだし。
がんばろっか。な、花緒さん」

「え……がんばろっかって、そんな事何も聞いてないのに……」

突然聞かされたことは、予想もしていなかったことで、本来なら部長から通達される内容。

「俺も今日聞いたばかりの極秘情報だから、口外しちゃだめだよ。……あそこで俺をにらみつけてる男前にもな」

私の耳元でそう囁いた渋沢さんは、喉の奥で笑いながら斜め後ろを視線で教えてくれた。

「後ろからの視線なのに、気付いてしまうくらいの睨み方だぞ。相当花緒さんの事好きなんだな。……恋人か?」

「恋人?」

相変わらず肩を震わせて笑っている渋沢さんの言葉にはっとして後ろを向くと、顔を歪めた夏弥が立っていた。

濃紺のスーツを着た長身は、華やかな会場の雰囲気にも負けていなくて目立っていた。

整った顔は私と渋沢さんを凝視していて、かなり機嫌が悪そうに見える。