週末の薬指

「社長、かなり泣いてないか?……今までの社長賞のパーティーの中でもずば抜けて泣いてる」

「確かに」

既に金屏風の前の壇上からは下りて社員の輪の中にいるけれど、笑顔はそのままで、溢れる涙を隠す事なく優しい言葉をかけて回っている。

心底プロジェクトの成功を喜んでいるようで、メンバーとして何年かを費やした私たちは嬉しいに決まっているけど。

それでも泣きすぎではないかと不思議に思える。

「去年はぽろっと泣いただけで涙は打ち止めだったんだけどな。社長も年とって涙もろくなったのか?」

くすくす笑う渋沢さんの言葉に、ふと気づいた。

「渋沢さん、去年も社長賞もらってるんですか?」

「あ、そうだな。今回で3回目だ。当たりがいいのか、社長賞を射とめるプロジェクトに召集されるラッキーな星の下で働いてるみたいだ」

肩をすくめてあっさりとそう言ってるけれど、それはたやすいことじゃない。

たった一度の社長賞を貰う事すら経験しない社員が多い中で3回も。

「すごい……。渋沢さん、優秀なんですね」

呆然と呟いた。

チームが違う私と渋沢さんは、このプロジェクトで初めて一緒に仕事をしたけれど、それまではお互いの接点もなくて知り合う事もなかった。

そのせいか、確かに仕事はできると思っていたけれどここまですごい人だとは思わなかった。