週末の薬指

マイクを通して、社長の明るい声が会場に広がった。

もしかして、司会も社長がこなすんだろうか……あの笑顔を見ると、きっとそうだと予想できる。

黒いタキシードはこの場に合っているような合っていないような。

マイクを持って段取りを確認している社長を苦笑しながら見ていると。

「あいつ、ほんとお祭り好きだよな……」

シュンペーのお父さんがぽつりとつぶやいた。

少し軽くなった空気の中でシュンペーを見ると、今まで見た事がないほどに困惑した瞳に気づいた。

私を見ながら、たくさんの思いがよぎっているんだろう、手をぐっと握りしめてそれに折り合いをつけようと必死だ。

「木内さん……」

低い声。それだけで今のシュンペーの気持ちがわかる。

私はふっと笑って、肩をすくめた。

目で『言っちゃだめだよ』そう告げながら。

社長賞受賞者が集められる。

各々散らばっていた社員たちが社長の指示によって集まりだした。

私も金屏風の前で笑っている社長のもとへ歩みを向けた時、シュンペーのお父さんが言った。

「俺の兄さんも、あの社長みたいにお祭り好きだった。きっと今日の日を喜んでる」

それだけ。それだけでいい。

あまりにも大きな事実を口にして、あらゆるバランスを崩すよりも、それだけでいい。

「はい……。ありがとうございます」

小さな声でそう答える私に、涙をこらえることなく大きく頷いたシュンペーのお父さん。

きっと、口に出す事は一生ないけれど、私のおじさん。

涙もろいところは私の父さんに似てるのかな。

そんな事を考えながら、照明で輝く舞台へと向かった。