週末の薬指

「は?」

冗談で言ってる訳でもなさそうな、真面目な声で呟くシュンペーのお父さんは私を食い入るように見つめている。

「あ、あの……」

強い視線に、どうしていいのかわからないでいると

「親父、若い男がナンパで使いそうな台詞で口説くなよ。お袋に言いつけるぞ。それに木内さんだって困ってるだろ」

「いや、口説いてるわけじゃないんだ……確かにどこかで……それに、そのワンピースにも見覚えがあるんだ」

私との距離を詰めながら、シュンペーのお父さんは私の顔を探るように何度も視線を落とし、そして今私が着ているシフォンのワンピースも気にかかるようだ。

このパーティーの事をおばあちゃんに話した後、『何を着て行けばいいのか困る』とぶつぶつ口にしていた私の目の前に広げられたワンピース。

ボルドー色のシフォンは軽やかに揺れて、胸元で切り替えが入っただけのノースリーブス。

フレアになった裾は膝丈で、ハイヒールを履くとちょうどバランス良く見える。

『紅花が大切にしていたワンピースだよ。今日みたいな誇らしい日に着るにはちょうどいいんじゃないか?』

きっとおばあちゃんの部屋のクローゼットに大切にしまわれていたはずのワンピースは色あせもなく、もちろんしみひとつなかった。

母さんが亡くなってから20年以上経ってもこんなにいい状態で保管してあった事に驚いたけれど、それだけ母さんを失った悲しみが大きかったんだと実感して切なくなった。

そして、まるで私の為につくられたようにぴったりと体に合ったワンピースを着てここにいる。

そんな昔作られたはずのワンピースに見覚えがあるとシュンペーのお父さんの言葉は一体どういう事だろう。やっぱり何かの勘違いだろうか。