週末の薬指

おばあちゃんは、何かを思い出すかのようにシュンペーをじっと見ていた。

私の背後からゆっくりとシュンペーとの距離を縮めながらも視線はシュンペーから外さない。

揺れている瞳は少しうるんでいるようで、今にも涙が零れ落ちそうに見えた。

「おばあちゃん?」

そんなおばあちゃんの様子に混乱した私とシュンペーは、ふたりして顔を見合わせて首を傾げた。

シュンペーの前に立ったおばあちゃんは、何も言わずにただシュンペーを見ているだけで何をしたいのかよくわからない。

おばあちゃんの肩が微かに震えているのに気付いて、更に何も言えなくなった。

どうしていいのかわからないまま固まっているシュンペーの『木内さーん』という困った視線にもどう応えていいやら。

一体、おばあちゃんに何が起きているんだろう。

ここに来るまでの様子だっておかしかったし、何か張りつめた空気が絶えずあった。

そんな時、戸惑ったままの私達に、明るい声が響いた。

「この女性が隼平が尊敬する先輩か」

はっと三人の視線が声のする方へ向いた。

そこには、隼平そっくりの顔をした紳士が立っていた。

「親父……」

紺のスーツがよく似合うAホテルの社長、が笑って頷いていた。