週末の薬指

その日、休みを取っている夏弥は私の出勤に合わせて一緒に家を出て、自分のマンションへと帰っていった。

密な夜を過ごしたせいか、駅に着いて反対側のホームへと向かう夏弥の背中を見送った時、寂しくて仕方なかった。

会社に着いてもしばらくはそんな気持ちのままで、こんなに自分は弱かったのかと、その事に落ち込んだ。

「さ、今日も仕事仕事」

気持ちを切り替えて自分の席に着いた時、待っていたかのように課長から呼ばれた。

課長を見ると、何か資料を見ながら私を手招いている。

「課長、おはようございます。何かトラブルでもありましたか?」

課長の様子を不思議に思いながら課長のデスクの前に立つと。

「いや、トラブルじゃないんだ、この前のプロジェクトの成果が認められて、メンバー全員に社長賞が贈られる事になったんだよ。ほら、これがその通知だ。おめでとう。
今晩社長主催の食事会が開かれるらしいから、……あ、簡単な食事会らしい。
定時後ここに書かれているホテルに行ってくれ。良かったな、頑張った甲斐があったじゃないか」

嬉しそうに笑う課長から渡された社長賞決定の通知書。

「ありがとうございます」

驚いて、感情も込められない声でそう呟いた。

社長賞といえば、年に一度出るか出ないかの大きな賞だから、本来ならもっと大喜びするべきなんだろうけど、私には単純にそれを喜ぶ事ができないでいた。

小さく頭を下げて課長の席を後にしながら、

『食事会か……』

ため息が出た。

あのプロジェクトの参加者全員に社長賞が贈られるのなら、それは悠介にも贈られる。

ということは、今日の食事会にも来るはず。

同じ会社にいる限り、嫌でも顔を合わせないといけないのかな。

私に同情を寄せる振りをしながら自分の立場しか考えていない悠介と顔を合わせ
るのかと思うと気が重い。

せっかく夏弥との未来に幸せを感じていたのに、まるで狙っていたかのように水を差されて。

夏弥に会いたくて仕方がない。