週末の薬指

にっこり笑ってる夏弥にほんの少しの厳しい視線を送ると、途端にくすくすと笑われた。

「ほんと、かわいいよこのお姉さん。花緒に似てるからいっつも目がいくんだ。しっかりしてるようでもどこか壊れそうで。ほら、また原稿読み間違えてるし。そんなとこも花緒そっくり」

「はあ?」

思ってもみなかった夏弥の言葉に、気が抜けたような私の声。

「毎朝このお姉さんを見ながら会社に行くんじゃなくて、本物の花緒に見送られて会社に行きたいんだよ。早く嫁に来い」

私の頭をくしゃくしゃとする夏弥の手に、何故か嬉しさがこみあがってくる。

優しい瞳が私を見つめてくれるこんな朝が、私にとっても毎日の事ならいいと心から思った。

だから。

「今日、俺の両親も旅行から帰ってくるから、挨拶して、すぐにでも籍入れよう」

夏弥の言葉に何度も頷いた。

夏弥に預けたままの婚姻届を役所に提出する事をどこかためらう気持ちもあったけれど、今はとにかく夏弥の事が大好きでたまらない。

出会って間がない事への不安もあったし、夏弥の両親が私の出生の事をどう受け止めるのかが心配でたまらなかったけれど、今はこうして夏弥が私を大切にしてくれるだけで安心できる。

愛し、愛される事が基本なんだから、後は二人でなんとかできると、不思議と気楽に考えられるようになった。

それもこれも、ひたすらぶれずに私を愛してくれている夏弥の強い気持ちのおかげ。

私が気づかない時からずっと私を見守り続けてくれた人。

見方を変えれば、単なるしつこい男なんだろうけど、結果的には私の気持ちも夏弥に寄り添っている。

だから、それでいい。