週末の薬指

私と夏弥の気持ちがこれまでになく近づいて、私の中にあった不安がかなり消えたとはいえ、世間が騒いでいる美月梓との熱愛騒動は完全に収まったわけではない。

ワイドショーでは朝早くから何度も沖縄での美月梓の動向が報じられ、マネージャーらしき人達にガードされながら笑顔を絶やさない彼女の姿をテレビ越しに見た。

この前夏弥のマンションの玄関で見かけた時よりも明るい笑顔は、沖縄の陽射しによるものなのか、それとも単にマスコミに向けて作っている笑顔なのか。

印象の違う彼女の雰囲気に首を傾げながら朝ごはんを食べていると、隣の夏弥が小さく笑った。

「あーあ、本当楽しそうだよな。周りを巻き込んで右往左往させてるってのに。本当、モデルの才能はピカイチだけど、近くの人間はかなり苦労するよな……あいつもかわいそうに」

ため息まじりの声は、呆れつつも楽しんでいるような、口調。

テレビに映る美月梓に向ける視線も穏やかだ。

「本当、とんだ騒ぎだったよな」

「……あいつって?」

「は?」

「だから、さっき『あいつもかわいそうに』って言ってたけど、あいつって誰の事?」

夏弥の口から出た言葉は、きっと無意識なんだろうけど、美月梓に関する事に違いなくて、やっぱり気になる。

あいつなんて言うくらいだから、それなりに親しいだろうし夏弥も好意を持ってる気がした。