週末の薬指

軽く頭を下げる夏弥に、蓮さんは、ふふん、と鼻で笑った。

「本当に、大変だったんだぞ。校長がミーハーで、美月梓のファンじゃなかったらうちの学校の教師の振りして一緒に帰るなんて、絶対にOKしなかっただろうしな。生徒だって、マスコミから逃げるとかいう滅多にない経験して大騒ぎだったし。……校長には、間違いなく美月梓のサイン送ってくれよ。約束なんだからな。じゃなきゃ、俺減給だぞ」

「わかってるよ。ちゃんと電話で梓のマネージャーに頼んでおいたよ」

「ホントに、ま、いいけどな。これで貸し一つな。……まあ、こうしてお前がストーカーしてた女も見る事できたし。……といっても、やっぱり普通の女だったな。今まで夏弥に近づいてきた女達とは違うな。
……希未がすごく可愛いって言うし、夏弥と並んでるとしっくりくるっていうから期待してたのにな」

「な……」

幾つも並べられた私を見下すような言葉に、一瞬、私の怒りが沸点に近づいた。

何の悪気もなく言っているようなその顔にすら敵意を感じて、思わずグーで殴ってやろうかとも思う。

私の隣に座っている夏弥を見ると、口元を歪めてはいるものの、特に蓮さんに注意するわけでもない。

私の視線に気づくと、小さく何度か頷くだけ。

私がここまで言われてるのに、どうして?

何か言ってくれてもいいのに……。

そう思っていると、

「希未さんも素敵だけど、俺には花緒が誰よりもいい女だから、それでいいだろ?」