週末の薬指

テーブルに並べられた幾つもの料理は、私のためじゃなくて夏弥と蓮さんがここに来る事を見越しての量の多さだった。

夏弥と美月梓との報道によって傷ついた私を励ますためのものではないとわかって、妙にほっとした。

おばあちゃんが、そんな見え透いた慰め方をするわけがない。

慰めてるとわからないように、そっとどこかで私を盛り上げてくれる、そんなおばあちゃんのやり方に慣れてきたせいか、真相を知って、普段と変わらない展開に気持ちが落ち着いた。

とはいえ。

こうして夏弥と連絡を取り合って、呼び寄せるなんておばあちゃんらしくないような気もするけど。

「ああ、何度も瀬尾さんから電話があったんだよ。『花緒が携帯の電源を落としていて繋がらない』って泣きそうな声でね。で、沖縄から帰ってきたらいつでもうちにおいでって言ってたんだけど、まさか『今晩にでも伺います』なんて返事が返ってくるなんて思わなかったよ。やるね、花緒。こんな男前をここまで夢中にさせるなんて、さすが私の孫だよ」

機嫌よく笑っているおばあちゃんの言葉に、苦笑しながらご飯を食べてる夏弥。

夏弥が大好きだというひじきの煮物がテーブルにあった時点で、予想しても良かったのに、まさか夏弥が訪ねてきてくれるなんて思わなかった。

それに、泣きそうな声でおばあちゃんに電話をしてたなんて、まさか、まさか、だ。

どちらかと言えば、いつも穏やかに表情を変えず、何に対しても動じない夏弥の泣きそうな声、聞いてみたかったな。